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2013年1月26日土曜日

卒・修展一日目 ゲスト:森弘治さん

とうとう東京芸術大学、卒業修了制作展が始まりました!
「午後ラウンジ」トークシリーズも上野に進出です。

「午後はラウンジで会いましょう」のトークイベントは、学生の講評会とゲストのトークがひとつながりで行われます。またゲストのトーク中はそれぞれ飲み物を手にとりつつ、和やかなムードで行われるため、これまでのゲストさんもリラックスされていて、ちょうどいいゆるーい空気でセッションされてるという印象があります。


さて、上野の第一日目である本日のゲストは作家の森弘治さんです。

最初は東京都美術館から出発し、学部生6名の作品講評をしていただきました。
この写真では、左から二番目に森氏がいらっしゃいます。


こんな風に連日「旗」を持って移動しています。見つけた方は是非近くに寄ってお話を伺ってみてくださいね。

はじめは三嶋一路くんの作品「L.T.C.E.M」の講評です。


次は森未央子さんの「東京白昼夢奇譚」



お次は江原愛梨(原 薆)さんの「紡がれた記録の記憶―「family photograph」―」


次は金野恵利香さんの「チャンネルズ」


次は飯田有佳子さんの「[あなたと]あの子の見つけ方」


ラストは足立靖明くんの「ことほどさように」



講評会が終了し、一行は二階へ移動し、森氏によるトークがはじまりました。




「午後はラウンジで会いましょう」のイベントはカッチリ緊張感のあるトークではございません!
お客さんにもゲストにもドリンクとお菓子をふるまい、和やかなムードでトークが進んでいきます。


森氏は多摩美術大学でどっぷり美術に関わり、卒業後はなんとマサチューセッツ工科大学(以下MIT)の大学院へ進学。もちろん美大とは全く異なる雰囲気であったようで、そのときのエピソードが語られました。
当時「パブリックスペース」という言葉すら知らなかったため、MITの先生には5・6冊の本を渡され(もちろん英語)、一週間で読んでこいと言い渡されたそうです。
しかし膨大な文章量を前に読み切ることができず、なんとか自分の意志を発しようとした結果、Tシャツに「パブリックスペース」と日本語で書いて「読めませんでした!その代わりにこれを書きました」とTシャツ胸元の文字を先生に見せた。すると「これがお前のレスポンスなんだな」と、許されたのだそう。

MITでは同級生や先生たちはすごい人たちばかりだったそうです。
当時の先生方は教えること、伝えることが巧みで、ロジカルでありクリアであり非常に素晴らしかったそうです。
「すごい人と出会うことは重要だ」と森氏は仰ります。
美術学校およびアートの世界では「コンセプチュアル」ということを思考することが多々ある。しかし「コンセプチュアルであるかどうか」以前に、そもそも日常におきる出来事の中にコンテンツはいくらでもある。普段の生活の中のありとあらゆるコンテンツに知覚体験は存在するし、プラクティスに繋がっている。
そう気付いた森氏は日常に切り込んだ様々な映像作品を作っていったそうで、イベントでは当時制作したいくつかの映像作品を鑑賞しました。

そのうちに森氏は、アメリカで生活するうちだんだんとしみわたっていった文化や日常と、やはり日本人として持っている感覚や周囲からの思われ方というのが混じり合っていった自身の体験に着目しました。
日本へ帰国した際も、日本人としての意識もありながら、以前と少し変わった日本の社会や日常というものと対面されたとか。
その頃ちょうど女性専用車両が導入されたり、また日本には英語の名前の店舗が沢山あることも気になったのだそうです。日本に暮らす日本人には流れを持ち当たり前として存在する出来事に対して、森氏は異なる視点を持っていました。そこから森氏自身の体験にひきつけた、新たな映像作品が展開していきました。



また、森氏は色んな人が介入してくるような様々なプロジェクトで映像作品を作っていらっしゃいます。
今回は多摩美術大学の映像演劇学科の学生たちと行ったプロジェクトをいくつか紹介していただきました。



こちらは「引用」を題材にしたプロジェクトです。
何かからの「引用」を台本にして役者が演劇として組み立ててゆく内容で、同じ「引用」でもグループごとに異なる演出がつけられ、それが映像作品となっています。
国会の答弁を引用したものは、ストレートに国会の答弁形式で2人の役者が代わる代わる答弁していくものであったり、全く答弁とは異なる動きをしていくものなどグループによって様々な演出で展開されていました。

他にはネットの掲示板によせられた質問と、それに対するレスポンスを引用した37分に渡る大作を一部鑑賞させていただきました。上の画像に映っているのがその映像です。
こちらは、いわゆるトピ主が「夫の年収」や「家庭の経済事情」について相談を書き込み、それに対して様々な階級の様々なレスが連なっていく掲示板の内容を引用しており、匿名性ゆえにプライベートなインフォメーションが多様に現れてくる非常に興味深い内容でした。
この作品では1人の役者がトピ主、レスをした人々のコメントから勝手に人物を想像し、全てを1人で演じ分けるというとてもシンプルな形態です。
そのためか非常にユーモラスで奇妙で、見ているうちにどんどん鑑賞者もその空気感に笑いを堪えられなくなっていきました。
役者さんの舞台がかった口調や声の大きさ、表情などが、書き言葉を語り言葉に変えてしまうのです。もちろん「引用」が題材ですから、言葉の節々を変えたりしてはいけません。しっかりと文語調に従って、口語調で台詞を言うのがなんとも言えない面白さを醸し出していたように感じました。

森氏いわく、この映像作品には英語で言う「tacticallity(大意でリアリティみたいなもの)」がある。レスをする主婦たちの日本におけるクラス、メンタリティが明確に現れてしまう、そこが非常に面白いのだと仰っていました。

いくつかの映像作品といくつかのプロジェクトをご紹介いただき、最後に森氏はアーティストを目指す私たち美大生へ、自身の体験に基づいて、いくつかの言葉を投げかけてくださいました。
わたくしのメモからの引用となりますので、すこし印象が変わってしまうかもしれませんがご了承ください。


本などから得た知識やセオリーと、自分の思考というのは必ずしも身近ではなく、距離があったり、なかなかセオリーを思考と結びつけてアートプラクティスとして展開するのは難しいものです。
しかしだからといってセオリーを忘れたり、セオリーに近づこうと無理をするでもなく、きっといつか繋がるときが来ると思って心の隅に残しておくと良い。
自分の心に素直になってほしい。
内側の心に正直に。
制作中に「何かおかしいな」と少しでも思ったら疑ってみることはとても大事。
プライベートなことでもアートになる。しかしこれに客観性を持たせること、アートとしての装置に引き上げ、客観性を持たせて鑑賞者と「シェア」することはとっても難しいこと。
だが、それができるのがアーティストの素晴らしい力だと僕は思います。
広い視野と広い知覚を持つというのもアーティストの素晴らしい力です。

みなさん頑張ってください、と仰ってくださいました。

卒業する学生たちにとっても、そうでない方たちにとっても、作家として活躍する森氏の言葉はとても学ぶことの多いものだと思います。
外を見る力と内側を見る力、そしてそれを他者とシェアする装置として引き上げる作業というのは人それぞれ違う形にはなると思いますが、誰にとっても重要であり必要なことなのかなと感じました。

さて、明日のゲストはトビらーの方達です!お楽しみに。



文責 修士二年 林友深

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